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バトン

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私の母校、東京造形大学は、とにかくデッサンを大切にする学校でした。
一次試験もデッサン、二次試験もデッサン。
大学に入っても、とにかくデッサン。
それというのも、造形大学の彫刻科は、ものの本質をみつめる、ちゃんとした目を鍛える、という先生方の熱い思いがあったからです。

いいデッサンとは、上手いデッサンではなく、人の心を動かすデッサン。
そんな事を信じて、来る日も来る日も大学の朝、授業の始まる3時間前、こっそりスケッチブックを持って、彫刻棟の猫たち、木々、人たちをデッサンしました。

大学2年の時に、彫刻家の佐藤忠良先生が、私たちの授業をしに大学に来てくださいました。
佐藤先生は、造形大学の名誉教授で、デッサン、塑造を何よりも大切にされる、具象の昭和、平成の彫刻家です。

佐藤忠良先生、舟越保武先生、柳原義達先生。
私たちの中では、あこがれの時代を切り開いた大彫刻家でした。
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佐藤先生は、人物塑造をとても大切にされていました。
上手な塑造をするみんなの中で、塑造が苦手で下手な私に、佐藤先生は、こう言ってくれました。
「塑造の力は、粘土と仲良くなる事だ。毎日土に触って、よく目でも触りなさい。」

ひとことがあまりに重く、あたたかく、貴重で、
私は次のモデルさんの休憩時間にトイレに駆け込んで何だか分からないけど涙が止まらなくてわんわん泣きました。
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「一日土をいじらざるは、一日の退歩」の言葉を胸に、
真面目で、真剣で、情熱にあふれた彫刻制作をされていた佐藤先生。
自分の事を、芸術家でなく、職人だ、ともおっしゃられていました。

そんな先生の、大すきな言葉とエピソードがあります。90才くらいの時に、テレビ「老友へ」という番組で取り上げられた時のことば。

「初心に戻れと言うが、私は到底初心になんて戻れない。
 なんとかいくらか純度の残っていた頃の作品までに引き返せないものかと思っても、
 本当のところ引き返すことができず、まだ彫刻をやめることができないでいる。
 暮らす事さえ難しい彫刻の仕事を、70年も続けてきた。

 私はキリストもお釈迦様も信じないが、自分の失敗だけは信じている。
 失敗こそが自分を導いてくれる。

 若い人には汗をかけ、恥をかけ、手紙を書け、といつも言っている。
 失敗したら、やりなおせばいい。
 やり直して失敗したら、またやりなおせばいい、
 わたしはそうしている。」
 
この言葉が、大学の柱の壁に貼ってあって、私は毎日読んで、暗記してしまいました。
大すきな、たいせつな、言葉で、この言葉に出会えて、ほんとに良かったと思います。

私はそれから、どんなに大きな失敗をしてもやり直す事にしています。
できるまで何度も何度も、100回でも1000回でも、あきらめない。
失敗こそが、自分を導いてくれる
この言葉があるから、がんばれた事がどれほどあるでしょう。

そんな言葉をたくさん残してくれた佐藤忠良先生は、実に70年以上も日本の彫刻界をひっぱってくださり、今朝、この世界を後にされました。

宮城県出身の佐藤先生、日本を長く見届け、「がんばれ」という声が今にも聞こえてくるような気がしてなりません。

彫刻というひとつの小さな世界の、
大切な恩師の先生方が、今の私達にどれほどの勇気をくださったことか。
彫刻の先人たちが太古からつないでくれたバトンを、私たちが受け取って、次の世代へ正しくつながないといけないなと思います。
佐藤先生は、ほんとにたくさんの生徒たちに彫刻家のバトンを、渡してくれたんだと思います。
ひとりひとりに、「がんばれよ」の心を込めて、
教えてくださったたすべての事、残してくださった言葉を胸に、造形大の誇りを持って、彫刻を続けて行きたいとおもっています。
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by m_kirin30 | 2011-03-30 21:04 | 日常
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