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はじめての木彫り

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彫刻を志したきっかけは、いろいろありますが、一番初めは、幼少時代にさかのぼります。
飼いはじめた犬がすぐ病気で死んでしまい、大好きな生き物を助けられない無力な自分が辛く、
動物の命をたすける仕事、獣医師を目指そうと決めたのが最初でした。
だけど15歳の時阪神大震災にあい、美しかった動物たちの姿がある日突然目の前からなくなってしまう体験をして、失ってしまった後の命のことについて考えるようになりました。
地震で頭がくらくらしたせいか、なんだかその頃から、無性に絵が描きたくなりました。
今見ているものは必ず消えて無くなる、という思いから、見ているものを残すことで、自分の今生きている証明書を残していたかったのかもしれません。
現実のかけらを残すことのできる美術にとりつかれた私は、高校2年生のときから美術予備校に通い、進学も美術大学を志すことに決めました。

それからうちにかわいい猫がきて、大学入学までずっと実家で一緒に暮らしました。

当初は仕事の振り幅の大きい、デザイン、工芸科に在籍していましたが、絵を描くこと、デッサンすることでは物足りず、まるごとそのまま、等身大で現実を残したい、という思いにとりつかれていました。
東京芸大を目指していた私は、せっかく3年間も工芸科の勉強をしてきたのだからということもあり、
東京芸大は工芸科で、東京造形大学は彫刻科で、通してくれたほうに、人生を委ねよう、と心に決めました。
そうして両親の理解もあって(今思えば本当に感謝の気持ちでいっぱいです)、志望の彫刻科に入学することになりました。

実家に帰るたびに可愛がった大好きな最愛の猫でしたが、大学3年生の時に家出をしたと実家から連絡を受け、
それっきり帰ってこなくなってしまいました。
初めて作った動物の肖像彫刻が、その、いなくなってしまった猫と、在学中に飼いはじめた黒柴月くんの木彫でした。
月くんは観察がたくさんできましたが、猫のトムくんは思い出そうとしてもあまり思い出せず、写真やデッサンをたよりに作りましたが、「ああもっとかたちをよくおぼえておけばよかったな。。」と、後悔の気持ちでいっぱいだったのを覚えています。それでも、今もそのトムくんの彫刻を見るたび、可愛かったあの姿を、涙が出るほど思い出します。それが、わたしにとって、はじめてのちゃんとした動物の木彫りでした。

そんなこんなで、目の前に実際に生きている、生きていた、私と出会った動物たちの肖像彫刻を、どこまでもリアルに残そう、彫刻に触れた時に、もう一度その子に出会えるような気持ちになるようにと、
現実の生きたその子自身を残す動物の肖像彫刻家を志し、彫刻を見てくださったかたから、うちの犬も、猫も彫ってくれないか、とご依頼が来るようになり、それがずっと続いて今に至ります。

私は自分の仕事を現代美術だとは思っていません、現代美術の方々からしてみればコンセプトのない美術なんて、美術と認めてくださらないかもしれません。
現実が一番美しいと思っているので、現実の動物たちが持つ最高のデザインに、いつも敬意を持っています。
デフォルメもアレンジも装飾も擬人化もなく、そのままの動物たちの姿を彫刻に残したいと思っています。
これからも、この気持ちは、一生変わることはないでしょう。
いろんな作風をつくりなさい、もっと新しいものを発表しなさいとよく言われるのですが、
私にとっては目の前の現実が一番新しく、新鮮で、毎回違う感動があって、同じ月くんを作っていても、タッチから何からすべてあたらしい、発見の連続です。
この、はじめて彫刻を作った時とおなじ気持ちと感動を、生涯持ち続けていけたらなと思います。
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この秋の予定など

9月26日 27日 東京 もみじ市 出店 木彫りのブローチや、ちいさな木彫りの彫刻、先行発売で「はじめての木彫りどうぶつ手習い帖」も発売予定です。
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9月30日   「はじめての木彫りどうぶつ手習い帖」はしもとみお著 雷鳥社より出版 全国書店で販売
         amazonさんより予約受け付け中
         特設サイトもあります

かんたんな木彫りから少し難しい動物の木彫りまで、木彫りの教本&彫刻写真の作品集を作りました、
木彫りに興味がある方や、自分のかわいい愛猫や愛犬を彫ってみたい方、彫刻が好き、動物が好きな方、たくさんのかたに手にとっていただきたく思っています。

10月3日  いなべ市主催 art&camp 名古屋 ミッドランドスクエア 彫刻展示、ミニワークショップ開催

10月16日〜2016年1月11日まで 
       浜田市世界子ども美術館 島根県 にてグループ展 ワークショップ開催

11月18日〜23日 いなべ市北勢図書館 藤原文化センター はしもとみお彫刻展







by m_kirin30 | 2015-09-04 20:01 | | Trackback | Comments(4)

ことば

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一冊の本が、人生を変える事があります。
私は19才のときに一冊の本に出会って、その後の生き方がおおきく変化しました。
美術の世界に来たはいいものの、何を自分の原点にしていけばいいか分からなかった私に、予備校の先生方がいい本だよ〜とおしえてくれたのが、この本です。

「ジャコメッティとともに」 矢内原伊作

最初に彫刻家ジャコメッティから矢内原にあてた手紙、
それは、この長い長いジャコメッティと矢内原のパリでの格闘の日々のあとに書かれたものでした。

「あの時私は生涯で初めて一本の線もひけなくなり、自分の画布を前にして何をすることもできずに座っていた。君のおかげで私はあの地点に到達したのであり、私はあそこへ到達する事が絶対に必要だったのだ
われわれは、われわれの仕事をつづけるだろう、われわれの肖像を互いに描きあうというわれわれの仕事を。
そしてわれわれは少し先へと進むだろう。終わりない道を少し先へと。」

この時点では、これらの言葉の重みが、リアリティがまだ分からない。
だけどこのあと、矢内原がパリでジャコメッティのモデルをしていたときの膨大なリアルな手記により、その真実が明かされていきます。
ジャコメッティはデッサンで、矢内原は手記で、その真実の記録を互いに残しあおうとした、そのうつくしくリアルな日々、これこそが、わたしの探していた、真にリアルな日々なのでした。

現在、この「ジャコメッティとともに」は手に入りにくく、そのすべてを読むのはおおきな図書館でしか困難ですが、後日発売されなおした「ジャコメッティ」には、真実の核心部分が削除されてしまっています。
わたしは、ジャコメッティと矢内原の真実は、「ジャコメッティとともに」のこの本でしか、理解できないと感じています。この本を行きつけの天牛書店(大阪)で見つけたときは心がふるえ、高額でしたがすぐ買いました。
どれほどのお金よりも、たいせつな、私のなかの一冊の本です。


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「巨岩と花びら」舟越保武

それから、彫刻の世界に興味を持った私は、先輩が読んでいたこの本を買い、心が彫刻のほうへ、またおおきく動き始めました。
「ジャコメッティとともに」を読んでこころがうごき、「巨岩と花びら」を読んで心が固まった、そんな感じでした。

彫刻家、舟越保武先生の日々のかなしくも美しいリアルな手記、そのどれもの暮らしが、純粋でまっすぐで、あたたかい、彫刻家って、なんてすてきな人たちなんだ、と感じました。
「自分が真剣に作ったものを、あなたが真剣に見てくれている、それが何よりすばらしいこと」
彫刻の原点のたくさんつまった、本当に美しい日本語の、一冊の手記です。
美術を目指すすべての人たちに読んでほしい一冊です。
この本を私は常に数冊買っておいて、後輩たちにプレゼントしては、また買いました。
私のせいでか、現在は在庫がほとんどなくなり、手に入りにくいようで、少し心苦しいです。(おそらくは全く関係ないでしょうが)

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「蝶が飛ぶ 葉っぱが飛ぶ」河井寛次郎

河井寛次郎さんの本はすべて読みました。
ものづくりのよろこび、仕事のよろこび、いのちが生まれるよろこび、
よろこびの言葉でうめつくされているこの本は、わたしの最も好きな、日本民芸運動がさかんだった頃の寛次郎さんの言葉たちです。
わたしはもう一度、日本民芸運動旋風をまきおこしたいという夢があります。
「有名は無名に勝てない」常に謙虚で真摯に、時に科学者のようにクールに、現実を語る、たぐいまれな一冊です。

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「バベットの晩餐会」

この本はとてもみじかく、すぐ読み終わるのですが、映画にもなっている原作です。
だけど短いストーリーの中でも重く鋭い一節一節が、芸術の核心を突いているような気がして、
暗記するまで読んだものです。

「次善のものに甘んじて満足せよと言われるのは、芸術家にとって、過酷な事、耐えられぬ事です。
真の芸術家はいつも、自分に最善を尽くさせてほしい、というこの世に向けた悲願の叫びがあるのです。世界中で芸術家たちの心の叫びが聞こえます。わたし最高の仕事をさせてくれ、と。」

「ひとがあの世に持って行けるものは、この世で人に与えたものだけなんだって」

わたしはこれらの言葉をいつも、脳の中に宿して暮らすようにしています。

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あとはいろいろ、漫画も好きで読みますし、絵本も読みますし、本棚には動物関連書籍の他にも貧困旅行記や博物学の本、宇宙物理学の本など様々ですが、全般的には、ノンフィクションのものが多いです。わたしはきっと、この世の事実が、好きなのです。

今回は、すこし、お盆という事で、横道にそれた、大好きな本の紹介をさせていただきました。
次回からいつもの制作日記に戻ろうと思います。


8月29日に、タリーズコーヒー新宿コクーンタワー店でイベントがあります、
絵本「神様のないた日」の読み聞かせ&ライブイベントです、

ぜひ遊びにきてくださいね!
by m_kirin30 | 2012-08-13 10:40 | | Trackback | Comments(2)