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ものがたり。

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東京での展示会が終わりました。
このブログを読んで知って頂いた方が想像より多くて、びっくりと同時にとっても嬉しいです。
今回の展示では、本当に不思議なことがたくさんおこり、
色んな物語がありました。

そんな彫刻のまわりに付いてくる、たったひとつのものがたり。
いまはそれが嬉しくて楽しくて、仕方ありません。

こんな物語がありました。
彫刻家の舟越桂先生。私の大学時代の先生であり、彫刻家としても大先輩であり、とても尊敬している先生です。
雨の中、ふらっとギャラリーに立ち寄ってくれたそうで、
古い封筒を持ってきて、私の作品を選んで、買ってくださったそうで。

その封筒も、そのお金も、実は私が6年前、東京造形大で桂先生にお渡ししたものでした。

かつて私は大学四年のころ、卒業制作に使う木を探していましたが、お金もそうなくて、アルバイトをしてためたお金を握りしめ、材木屋さんに行きましたが、大きな木はたかく、とうてい買えません。どうしようかと考えていた時、先生から、ひとつの大きな木を、紹介してもらいました。

ごろんと大きなその木は、人3人が手をつないでぐるっと囲めるくらい、太くて力強く、すばらしく赤いクスノキでした。
「これでよかったら、使わないからあげるよ」
という先生に、いやそれはいけない、私は買います、といって、少ないですが封筒にお金を入れて、お渡ししました。
「なんだか申し訳ないなあ」と、先生は小声でつぶやいていました。

その木はすばらしく、くせの強いクスノキですが、コブや木目やその木の堅さと格闘するうち、私の腕はもりもり太く強くなり、くせの強い木ほど木と対話し、木と向き合い、友人のように木と接する事で、その木そのものになりたい形があることを学んだ本当に貴重でいい出会いでした。
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およそ10ヶ月の格闘のすえ、テングザルと犬の彫刻になりました。
私にとっては一番想いでの多い、長く時間をかけた作品でした。


あれから6年。
造形大に遊びに行った私は、桂先生に久しぶりにお会いしました。
そのときふっと、「あの封筒、実はとってあるんだよ。」と。
「あの封筒のお金で、君が作家として作品をどこかで発表したら、何か買わせてもらおうとおもう」
そう言って、いつものように先生はやさしく笑っていました。

そして、今回の展示会で、その約束(約束というより、先生がくれた物語ですが)を、
6年越しに、ほんとに実現してくれました。
私は嬉しくて、涙なしではいられませんでした。


彫刻科に入って、彫刻をはじめて。
彫刻の、そのまわりに起こる出来事や、生きた木との出会い、人との出会い、そして彫刻との別れ。
すべてが感動と喜びと、あふれる思い出で胸がいっぱいになります。
奇跡のような出来事も起こります。

先生がくれたたったひとつの物語を、これからたくさんの後輩たちに伝えて行きたいなと思いました。お金では、本当に買えない、何より貴重な物語。
仕事にする以上、お金は関わっては来ますが、
それを超越したものがたりに出会えると、苦しくてもつらくても、この先一生彫刻に人生を捧げるのだと、勇気をもらっています。
どんな仕事でも、ほんとうはお金より貴重なそういう出会いがあるから、続けて行けるのかもしれません。

正しく誠実に仕事をして行こう。
彫刻は誰かと出会うかたまりなんだと、造形大学の先生やみんなが、教えてくれた大切な彫刻の原点を、
思い出せた大切な一週間でした。
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最終日はjazzフルート奏者の太田朱美ちゃん,
ベースの織原良次君、
そして兄のドラマー橋本学を迎えて
美術の空間で音楽を作ってもらいました。

あまりの楽しさに、また音楽と美術をつなげたいねと、
お互い心に誓った、楽しい時間でした。

友人にはほんとうにめぐまれてきました。
私に、こんなにすてきな友だちがいる事が、私が誇れるたったひとつの勲章です。
これからもともだちや後輩、先輩や先生、彫刻をなででくれたひとりひとりの方々に、
私の目の前の美しい世界を伝えたいと、
また、努力を続けるつもりです。
展示会に来てくれた方々、応援してくださった方々、本当にありがとうございました。
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by m_kirin30 | 2010-09-30 20:14 | 日常
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