名古屋の貸家でまた月くんとの生活が始まって、月くんはこの時すでに8歳になっていました。犬の1日は人の何日分に相当するのだろう、私は月くんの一生の半分が過ぎてしまっている事を知り、あとの半分を、充実したものであるようにと、日々願って暮らしました。 仕事は忙しくしていましたが、ほとんどがアトリエで作業の日々。月くんとは四六時中一緒にいました。近くの夕焼けスポットで散歩したり、大好きなドライブを楽しんだり。でもそうしているうちに、仕事がどんどん忙しくなり、名古屋の家では手狭になってきました。 私は少し田舎のほうで庭が広くて大きめの家を探そうと、色んな物件を見に行きましたが、たまたま美術関係の知り合いのご夫婦が、三重に実家あるよ〜、使っていいよ〜と、ご好意で貸してくださる事になり、月くん最後のお引越しをしました。 月くんの老後にはぴったりの、大きくて広い田舎道の古民家。散歩もとても気持ちよくて、家の中も走り回れて、ここでの月くんは、なんだかとっても幸せそうでした。でもこの時もうすでに、月くんは11歳になろうとしていました。 11歳からの月くんは、穏やかに老後を過ごしました。といっても全然元気で、夏は涼しく冬は薪ストーブの生活、優雅な犬生を送っていた事と思います。大好物の薪ストーブで作った焼き芋ができると、大はしゃぎで家中飛び回っていました。こんな日がずっと続くような錯覚に陥るほど、月くんは元気で病院も一度もいきませんでした。 13歳の夏、月くんは初めて倒れました。柴犬によくある、前庭疾患でした。眼振が一週間続き、起き上がれず、お医者さんも治す方法もないので経過を見るしかないという事で、苦しい日々が続きました。 なんとか立ち上がれるようになって、歩けるようになって、でも以前とは決定的に違う衰えを感じました。 私も、月くんも、老いる、という事は初めての体験でした。 育てる、ということは、とても幸せな事です。できる事が一つ一つ増え、その度に家族で喜び、共に感じる事が出来るようになり、自由を一つづつ手に入れることです。喧嘩もあってもそれも元気な証拠です。 老いる、という事は、一つ一つの事が、できなくなる事。獲得した自由を手放していく事です。最初はそれに抗おうと必死で、毎日涙しながら足のもつれる月くんを散歩に連れ出しました。 でも、日に日に、寝るばかりになり、お漏らしも増え、夜鳴きもするようになりました。死に向かって歩いているのだと、見ていて感じるようになりました。 時という大きな存在には、何者も抗えない、生き物ひとりひとりに、それぞれが持つ寿命があって、死も、その子の一部なんだと、知る事になりました。 最愛の存在の死は、受け入れがたいですが、死はもともと生の一部なので、その子の死をも愛せるようになりたい、そう思いました。今は目の前で息をして生きていて、ある日だんだんと呼吸が止まり、動かなくなって、心臓がだんだんと停止する。その終わりの時を迎える月くんを、自分が淋しいからといって目を背ける事はできません。 月くんは幸い長生きしてくれたので、私は月くんが倒れてからの一年間は、ボーナスタイムだと思って暮らしました。 覚悟をする時間が一年もあったので、ちゃんと見送ってあげられたようにも思います。 そんなこんなで、初代月くんはある日息を止めて亡くなり、友達が火葬を手伝ってくれたのですが、なんとその近くから、小さな小さな亀が、ヒョコヒョコと出てきました。友達は慌てて我が家へ亀を届けてくれて、ムンちゃんと名付けられたその亀は、今も月くんの大好きだったテラスで、悠々と泳いでいます。 亀くらいが、ちょうどいいや、 人間と距離をとって生きられるし、長生きできるし、冬は寝られるし、楽ちん! 月くんが、そう言って願ったような気がします。 亀になった月くんと、新しく迎える二代目月くん。また仲良く日向ぼっこできるといいね。 世界は、生きているだけで本当に美しいものです。共に暮らす仲間がいればなおさら輝きます。誰かと出会うという事は、別れる時が来るという事。嬉しさと、哀しさが同じだけ起こるっていう事。それでも、私はまた犬を飼いたい。 初代月くんがくれたたくさんの宝物のような時間を、二代目月くんに恩返しできたらいいなと思っています。 月くんの一生の彫刻に触れられる展覧会、今度は名古屋で開催します。 ぜひ月くんに逢いにきていただければと思います!
by m_kirin30
| 2017-11-06 09:18
| 今日のわんこ
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